中P連全体研修会

中P連全体研修会
平成27年11月18日(水)19:00からなかのZERO視聴覚ホールにて平成27年度中P連全体研修会が開かれました。当日は100名近い方にお集まりいただき、盛大に行われました。保護者の皆さんはもとより教育委員会事務局の方や校長先生、養護の先生にもお越しいただきました。今回は中P連として初めて扱うテーマであり大変勉強になりました。まずはNPO法人レジリエンス 西山さつきさんより「子どもたちが加害者・被害者にならないためには~デートDVを知っていますか?~」と題して、講演いただきました。

また、中野区役所保健師・精神保健福祉士 稲吉久乃さんより「あなたはたいせつなそんざい〜川の源流で何ができるか〜」と題して犯罪被害を未然に防ぐ為の様々な活動や被害者相談窓口の業務を通じて、まずは源流である子どもの時から暴力についてを学ばせる事が大事であること、そのために大人が何ができるかについてを講演をしていただきました。

 

NPO法人レジリエンス 西山さつきさん

「子どもたちが加害者・被害者にならないためには~デートDVを知っていますか?~」

デートDVとは

いじめ、虐待、パワハラ…人が人を傷つけるとはどういう事か?その傷はどのように回復されるべきか?DVとは親密な関係で発生する夫婦間、恋人間で起こる暴力のことです。

DVといってもピンと来なかったり、自分には関係ないと思っている方が多いけれど、DVは身近に潜んでいます。その中で特に結婚していない恋人同士で起こるDVをデートDVと呼んでいます。

DVはとても身近な問題

ある調査によるとデートDVにあっているのは、実に5人に1人…思っているより多いと思います。そしてデートDVに被害にあっているのを相談する相手の一番は友だちです。

しかしその友だちの対応が間違っている時があります。そんな時にはしかるべき相談窓口に行く事が大切です。またデートDV防止の啓発活動は恋愛が始まる前に行わなければなりません。早め早めに子どもたちが知っていく事が大切です。

また、内閣府の調査によると夫婦間のDVは3〜4人に1人割合で配偶者からの暴力を経験していると言われています。講演する際にはその中の子どもたちに必ずDVの家庭があると思って話しています。

DVが及ぼす子どもへの影響

親の間のDVに子どもが責任を感じてしまっている子どもがいますが、子どもたちには全く責任はありません。このことをしっかり伝えています。そこに反応する子どもさんも多いです。子どもたちにあなたは全く悪くないことも伝えています。

また、DVの目撃ということは児童虐待にカウントされるようになりました。面前DVといって子どもの目の前で親のDVが起こる事はとってもつらい事です。例えば電車の中なら他の車両に移ることも出来ますが家庭ではそれが出来ません。子どもにとってどれだけしんどい事かと思います…

健全な人間関係はどこで学ぶかというと学校の道徳もありますか、身近な大人の事を見て、聞いて、感じ取っていく事が多いのです。DVの家庭で育った、虐待を受けて育った子どもたちにとって大切な学びは家庭以外での大人との繋がりの中で得られる場合もあります。ある子は学校の先生の言葉であったり、商店街や近所のおじさん、おばさんがかけてくれる暖かい言葉であったり…そういう事が非常に貴重なのです。自分が出来る事は何かな?と一人一人考えてください。

そういう子どもたちは健全な大人たちとの繋がりがあることで、助かっていくのです。社会で子どもを育てていこうという、そういう仕組みを作っていければいいと思っています。また、DV家庭で育った子どもは虐待の発生が高く身体的虐待が7倍、性虐待は4倍〜6倍高い、DVがあれば虐待がある、虐待があればDVがある、両方の可能性を見ていく必要があるのです。

DVとはパワーとコントロール、そして暴力

さて、DVはどのような仕組みになっているかなのですが、権力には差があり支配する側される側があり、支配を強化するために暴力が用いられます。

暴力は容認してはいけません。その意識を社会で高めていく事が必要です。

暴力は遺伝ではないです。連鎖でもないです。ただ学びです。子どもたちに暴力がいけないことを言葉で伝えるだけではなく、暴力を振るわない、いい生き方をしてみせていかなければならないです。

DVの加害者は二面性がある場合が多いのです。周りには良い人そうで見えて実は…ということが多いです。暴力で相手を支配したり、良い人そうに思わせて支配したり、いろんな支配を仕掛けたりしています。支配があるかのチェックリストがレジリエンスのホームページにありますので、もし周りにDVがある場合には区役所やウイメンズプラザ等に相談してください。専門的なケアやサポートが必要です。

暴力の種類

相手を支配するための暴力には体への暴力、性暴力、経済的暴力、精神的暴力、デジタル暴力(インターネット、スマートホンを使った暴力)があります。

特にデジタルには保護者世代と若い人には格差があります。若い人の中に何がおきているかを知っていかなくてはなりません。昔は子どもたちがお付き合いする範囲は周辺の学校程度でしたが、今はネットによって付き合う人の範囲が爆発的に大きくなっています。ゲームの中の掲示板などでやり取りされていたりします。大人の知らないところでやり取りされています。デートDVの一つとしてMixChannel (ミックスチャンネル)のような短い動画をアップするようなサイトにキスの動画をアッップすることによって、自分の彼女なんだ、彼氏なんだと支配する、世に知らしめるためにアップすることがあります。ひいてはリベンジポルノと呼ばれるもの…さまざまなデジタル暴力が相手を支配します。

DVのサイクル

またDVにはサイクルがあります。優しくなったり暴力を振う…その繰り返しです。怒りやストレスが溜まって爆発するのが暴力ですよねと聞かれたりしますが、怒りやストレスを感じない人はいません。何が暴力の原因になるかというと「暴力を振るっていいのだという考え方」…これが暴力の原因になります。

繋がりを作るのが人間です。子どもたちには暴力を振るわなく良い繋がりを持っていく技術を使ってほしい、なぜなら暴力は人間関係を破壊してしまいます。だから暴力はダメなのです。別に恋人同士だけじゃない、暴力じゃない生き方があり、そちらの方が豊かだと若いうちに気づいてほしいのです。

デートDVならば別れてしまえばよいと思うかも知れませんが、別れられないのです…それはなぜかというとトラウマティックボンディングという心理が働くからです。緊張を与えて優しくする、緊張を与えて優しくするそれを繰り返す事によって人はそこから離れられない、何とかうまくやっていかなければならない心理が働くことをいいます。それは愛情そっくりに感じてしまう場合もあります。だから別れられません。

尊重すること

また、尊重することは大事です。尊重がないという事は、自分の考えは良くて人の考えはダメ、尊重があるという事は自分の考えだけでなく人の考えもOK。違っているけど両方いいというのが尊重。自分だけでなく相手も大事、違ってていいのが尊重です。

尊重と暴力は絶対一緒にならない。だから尊重を増やしていけば結果暴力が減っていきます。それでは尊重することをどうやって学ぶかというとそれは感覚でしかありません。その子が尊重された感覚があれば人の事を尊重するのです。自分の人生がどうでもよくなると人の人生もどうでもよくなる…その子たちは人を大切にしなさいと言われても大切にされるということが何だか分からない…その子たちが、大切にされる感覚をどこかで得られたなら、その先が違ったのではないか…そう思えてなりません。

尊重は凄く大事なことなのだと言えます。同じ尊重のない会話でも束縛になると愛情になるのです。ここが根深いのです。尊重のない束縛は、愛情とは違う事を分かって欲しいのです。束縛=愛ではないです。

けれども良い恋愛はして欲しいです。恋愛も二人の中にどっぷり入っているような恋愛じゃなくて、それ以外の部活動や友だちとか勉強とか色々な経験をして、ちょっとした距離感を持つのがよい恋愛なのだという事を伝えていっています。しかしメディアはどっぷりとした恋愛を進めてきます。なぜかというと恋愛をテーマにすると物がよく売れるからです。メディアリテラシーの力を持って現実はちょっと違うと思う力も大事です。

PTSDとPTG

虐待にしてもDVにしても傷つきを経験します。傷つきを経験するとPTSDのいろいろな症状が体や心にでます。傷つき(トラウマ経験)は人を弱くします。それだけではなくPTGの要素があります。PTGのGはgrowth(成長)を表します。トラウマを経験した子は決して弱い子じゃないのです。それを経験したその子たちなりの強さを持っています。その経験を乗り越えると自信になります。PTGを感じられるような支援を世の中に増やしていきたいと思います。

デートDVを防ぐために

パープルリボン運動というのがあります。パープルリボンはDV防止の象徴です。運動期間中(毎年11月12日から11月25日は、女性に対する暴力防止週間)はバッチをつけたりしてPRをしています。また、アメリカではデートDVの防止活動が進んでいて、Circle of 6というアプリがあります。6人の友人を登録しておいて自分に危機があったときに居場所を発信するアプリです。また、若い人を巻き込んでデートDV防止活動をしていく事が大事だと思います。最後にホワイトハウスからのDV防止の動画(1 is 2 Many )をご覧になって頂きたいと思います。出ている人たちがスポーツ選手や若い人がリスペクトしている人たちでそういう方や大統領がメッセージを伝えてゆくのはとても素晴らしいと思います。

DVは社会問題

DVはその人に問題があったりたまたま運がわるくてDV被害にあったという個人的な問題ではなく、社会に元々あった間違った概念(暴力容認、ジェンダー)やいろいろな問題が多発している社会問題なのです。DVは個人的問題ではなく、この問題をなくすには私たち一人一人が意識を変えていく、子どもたちが知識をつけていく事、そうすることによってこの社会問題を変えていく大きなうねりになっていくのでないかと思っています。

 

 

中野区役所保健師・精神保健福祉士 稲吉久乃さん

「あなたはたいせつなそんざい〜川の源流で何ができるか〜」

 

自己紹介

私の職種は保健師です。平成2年から中野区で働いています。保健師とは地区活動や健康教育・保健指導などを通じて疾病の予防や健康増進など公衆衛生活動を行うものです。公衆衛生というのは個々の問題を個々の問題として解決するだけでなく、その個々をつなげて社会としての問題としてとらえる考え方です。

私は、生まれる前から亡くなるまで、地域の方々の健康に関する責任を負う保健福祉センターなどで働いて来ました。保健所では結核感染症についての仕事をしていましたが、そこで、とても気になる出来事がありました。

保健所ではHIVを含む性感染症検査を行っています。月に2回の検査日があり、私は担当として問診や検査に付いていました。ある時、女子高校生が制服でやってきました。高校生が性交渉をしていいか、わるいかということは別として、私にはショッキングな出来事でした。しばらくして、その子がまた制服でやって来ました。制服で来るということは、その子にとっては、その出来事は日常的なことなんだろう、でも、性感染症の心配をしなくてはならないということは、その子は相手に「コンドームを着けて」と言える関係じゃないのだろうと思いました。今でいえば、デートDVということです。その当時はデートDVという概念は知りませんでしたが、私は「これはいかん!」と、強く思いました。少なくとも、この子は自分を大事にするということを優先できる状態じゃないと思ったのです。その時、その子には話しかけることはできませんでしたが、どうしたら、そういうことが起こらないで済むのだろうと考えました。

そこで思いついたのが、小中学校でのお話し会でした。HIVについて、「自分を大事にする」という切り口でいくつかの小学校で出前のお話し会をしました。今は犯罪被害に遭われた方の相談支援が仕事です。でも、私の中の「公衆衛生が大事」「源流をどうにかしたい」という気持ちがむくむくと頭をもたげてきました。日々被害に遭われた方について真剣に相談支援にあたっているわけですが、それだけじゃいかん!ということで、区内の学校等で、様々な取り組みをしてきたのです。今日のお話しは「源流でどうにかする」というお話しです。

犯罪被害者等相談支援窓口

みなさんの中で、中野区に犯罪被害者等相談支援窓口があることをご存知の方はいらっしゃいますか?実は都内の自治体は62個ありますが、そのうち直接相談支援が出来る窓口を持っているのは4つしかありません。全国的に見ても、中野区の窓口のあり方はかなり評価をされています。中野区での支援は、相談、情報提供と助言・紹介と非常勤専任職員の配置です。中野区で特徴的なのは、色々な場での被害に遭われた方の直接のお話しを聞いていただく機会をつくってきたことです。この窓口ができた年から被害に遭われた方の直接のお話しを聞いていただく機会として、職員向け研修、区民向け講演会、子どもたちへのお話し会に取り組んできました。

犯罪被害者支援の歴史

昭和42年に通り魔殺人のご遺族への働きかけが最初です。その後昭和49年三菱重工ビル爆破事件や、地下鉄サリン事件、桶川ストーカー事件の遺族への支援活動で仕組みがつくられました。平成16年12月犯罪被害者等基本計画ができ、被害者参加という制度がやっとできたり、公訴時効(時効廃止)撤廃の法案ができたりという事がありました。犯罪被害に遭われた方の窓口を設置してくださいという要望も大きくなっています。

犯罪被害者等基本法とそれぞれの責務

犯罪被害者等基本法第20条には犯罪被害に遭われた方が、被害の後も、平穏な生活を営む事が出来るよう支援する、なかなか再び平穏な生活を営む事自体が難しいわけですが、その中でも平穏な生活を営むにはどうしたらいいかを、みんなで考えましょう、みんなというのは国であり自治体であり国民にも責務があると書いてあるのです。その国民の責務の中に皆さんもあるし子どもたちもあるのです。出来るだけ早く自分たちに何が出来るのかを子どもたちに伝えるという事は私たちの仕事であると思って子どもたちへのお話し会をしてきたのです。

様々な場所での啓発事業

中野区では職員向け研修、区民向け講演会、子どもたちへのお話し会を行ってきました。被害に遭われた方が、血を吐くような思いでお話しされるのは、事件の後も、住み慣れた地域で住み続けたい、そのために地域の方に事件事故に遭うということの苦しさなどを分かって欲しい、そしてさりげなく支援して欲しいという思いなどがあります。もう自分の事件は、裁判も終わっていたりしていても、自分のように苦しむ人はこれで終わりにして欲しい!という強い思いがあるからです。お話しを伺う私たちは、しっかりその思いを受け止めなくてはなりません。

また、区としては子どもたちに「加害者にならない」という選択をしてほしいという思いがあります。被害者にならないという選択は難しいこともありますが、「加害者にならない」ということは、自分でできることです。

公立小中学校でのお話し会

人権教育についての取り組みにぜひ犯罪被害者の人権の話しも入れて欲しいと教育委員会にお願いし、窓口を開設した20年度から取り組んでいます。多くの都道府県の教育委員会で人権課題というものがあり、東京都の場合、犯罪被害者とその家族という課題もあるため、区の教育委員会に何度も通って理解していただきました。

広島で16歳の女子が、元同級生を殺害した事件がかなりマスコミをにぎわせました。LINEの中で「人殺してきた」「何で?」というやり取りをしているのがニュースの中で流れ、私はかなりショックを受けました。「言い合いになり『今から来い』となって会い、灰ケ峰に行って殴って蹴って根性焼きをしたらあまり動かなくなった」「だから首折って棄ててきた」、動機については、「よう覚えてないけど人間じゃないとか死ねとか」「『殺してやる』と言ったら『殺しに来い』と言われたので殺した」ということがニュースで出ています。佐世保の事件もあったし、最近では愛知で女子大生が「誰でもよかった」と言って、殺人事件を起こしています。

これは中野区の話しです。ある小学校で殺すゲームをしたことがない子と聞いたら学年の4分の1しか手を挙げませんでした。戦争中と違って、死が病院の中のものになり、目の前に死が付きつけられることがなくなり、ゲームと現実の世界とのすり合わせができていないことで、余りにも死が軽視されているのではないかという危惧が私にはありました。

そこでとにかく、子どもたちに加害者にはならないという選択ができるようにしたい、また、被害に遭っても、それで終わりではないということも早いうちに分かってほしいと思って、何度も教育委員会にお願いに行き、分かっていただくことができ、教育委員会の方々の協力も得ることができました。20年から続けてきました。23年度は教育委員会と連携し、区内中学校全校12校で性暴力被害についてお話し会をするということになりました。しかし、一昨年度からはそれまで4年間続けて来たお話し会が開催できませんでした。色々な理由があったようですが、とても残念です。でも諦めていません。今日の私のお話しも、子どもたちへの直接のお話しに結びつくといいなーと思っています。

都立高校へのアプローチ

一昨年度末から区内の都立高校に伺って話しをしています。どの学校の養護教諭も危機感がありました。例えば、いじめ、親のDVの目撃、虐待、ネット上のトラブルなど、子どもたちを取り巻く社会そのものの影響を大きく受けており、直接間接の暴力にさらされている子どもが多くいます。その子たちに、きちんと安全である学校という場で暴力についての教育がされることが大切だと思います。

被害を受けても、それは「あなたが悪いのではない」ということは、小さいうちからちゃんと伝えたいと思います。

自尊感情とは

この1月に区内の小学校でお話した時、スライドを見ていただきました。『「いや!」と言うよ!』という絵本を参考にしました。また、先ほどお話ししたレジリエンスの心のケア講座の1つ、「自尊心」の内容も子どもたちに分かる言葉に直したりして作りました。

このスライドを作るにあたって「尊」という漢字は何年生で習うんだろうと思って調べたら6年生でした。でも、4年生の子に「尊」という字のつく言葉を聞いてみたら「尊敬」と答えた子がいました。

後から送ってくれた4年生の感想文には「自尊心という言葉が胸にきました」「自尊心は自分を信じること、今のままの自分でいいことが含まれる言葉」「ぼくも自尊心をもちます」などの言葉がありました。5年生では「自尊感情が低くなるときは人から暴力を振われたりするとき。向上するのは大切な人からほめられたとき」「自分が好きになりました」と書いてくれました。

6年生は「いやなことがあっても自分をけなさないように」「自分には価値がある」「嫌なことがあったら信頼できる人に相談する」などと書いてくれ、ちょっと難しかったかと思いましたが、とてもよく分かってくれました。

このスライドの時に話したのは「自分について」です。最近、テレビで女の人の格好をしている男の人がお笑いみたいになっていますが、これもその人の個性で、笑うことではありません。太ってる人ややせてる人、勉強が得意な人や嫌いな人、足が速い人や、遅い人、男の人が好きになる男の人や、女の人が好きになる女の人もいます。これもみんな個性で、だれからもばかにされたりするものではありません。「この世でたった一人の自分だし、今のままの自分でいい」といつも強く思っていてほしいと思います。

自分が大事な存在であれば、他の人もまた大事な存在であるということも理解できますよね?この「自分は大切な存在」と思う感情のことを「自尊感情」と言います、という話をしました。自尊感情はいつも変化します、というスライドです。失敗したり間違っても「どんな時でも自分には価値のある人間だ」と思っていてくださいと話しました。

まわりの人から攻撃されたら

どなられたとか、否定されるなど、周りの人から攻撃をされたりした時に、ちょっとでも、気持ちを盛り上げる方法をいまからやります。「ポイ捨てセレモニー」です。今までに言われて嫌だなーと思う言葉などを紙に書いて、くちゃくちゃに丸めたり、びりびり破いたりして、このゴミ袋に捨てましょう。

区内の大学でお話しさせていただいた時、大学生も先生たちも大喜びで参加していました。大人になると、ちょっと「あ、嫌なこと言われた」と思っても、我慢してしまうことが増え、言いたい言葉を飲みこんでしまうことも多くなります。でも、振り返ってみると、理不尽なこともたくさんありますよね。そういった時、このポイ捨てセレモニーは、とても役立ちます。子どもたちも楽しそうに取り組み、「ポイ捨てセレモニー」に関する感想も目立ちました。気持ちのリセットという言葉を書いてくれた子もいます。

いいタッチ・悪いタッチ

好きな人にぎゅっと抱きしめられたら、どんな気持ちかな?気持ちいいし、もっと抱っこしてほしいと思うと思います。安心できるからです。それは、あなたが相手の人が大好きだから、相手の人もあなたのことを大好きだから、そういう気持ちのいいタッチができます。

では、悪いタッチについて考えてみましょう。殴られたり、蹴られたりは痛いからいやだよね。勝手に体を触られると嫌な気持ちだね。みんなの体はどこもみんな大事です。中でも特に守られなくてはいけないのが、これからお話しするプライベートゾーンです。

プライベートゾーンとは

みなさんは、夏にプールで泳ぐ時に、何着て泳ぎますか?中にはスイミングに通っている子もいるかもしれないね。水着だね。女の子も男の子も、その水着に隠れる場所と口のことを、プライベートゾーンと言います。そこは、自分だけがさわっていい場所です。お父さんやお母さんも、自分できれいにできるようになったら、さわってないと思います。自分の大事な場所だから、自分以外の人がさわってはいけないのです。だから、プライベートゾーンを「見せろ」「さわらせろ」と言われたら、「いや!」と言いましょう。また、自分のプライベートゾーンを「見て」とか「さわって」と言ってもいけません。

あなたがわるいタッチだと思ったら、それは暴力です。あなたが悪いのではありません。悪いのは暴力を振るった人です。暴力を振るわれると、悲しくなったり、ご飯を食べたくなくなったり、眠れなくなったりすることがあります。でも、大丈夫です。あなたの話しをちゃんと聞いてもらえる人に話をして、一緒に考えてもらえれば、きっといい解決方法が見つかります。

打ち明けられた方へ

ここにいらっしゃる子どものことを守ってくださる立場の方にお話します。子どもへの性暴力は決して珍しいことではなく、また、女の子だけが被害に遭うということでもありません。まずは子どもの話しを聞いてびっくりしたり、遮ったりしないでください。そして、話してくれてありがとうと伝えてください。どんな状況でも悪いのは嫌な思いをさせた方です。被害に遭った子を責めるようなことはせず、「あなたが悪いんじゃないよ」と伝えてあげてください。大人も一人で解決しようと思うのではなく、一緒に考えてもらえる信頼できる人を探しましょう。これが区内小学校でお話しした内容です。

川の源流で

川の下流で、傷ついてしまった方のケアをすることもとても大事ですが、川の源流でなんとかしたいという試みをするほうが、コストパフォーマンスを考えても、ずっと意義深いと思われます。

このコストパフォーマンスと公衆衛生について、ちょっとわかりやすい例をお話します。例えば、肺がんになってしまうと、手術の費用が莫大に掛かります。私は神経の病気ですが、2006年にその治療の一環で胸部の手術を受けました。目が覚めたらICUにいました。意識が戻らない可能性も高かったので、「ああ、目が覚めてよかったなー」と思いました。胸部外科のICUなので、周りはほとんど肺がんの患者さんでした。ICUにはエンヤの歌が流れていました。その歌を聞きながら、痛みで眠れない中、一晩中煌々と電気が点き、様々な機械がずっと稼働し、看護師さんがずっと動きまわっている状況を見た時、生き残った私がやるべきことは、やはり公衆衛生だと強く思いました。つまり、肺がんになってしまって、手術ということになれば、医師や看護師に掛かる費用の他、手術器具やその他の使い捨ての器具の費用、光熱水費など、ものすごいお金が掛ります。このお金は個人が病院に払っているようですが、実際には医療保険を使っている訳で、国の持ち出しがたくさんある訳です。しかし、もし小中学校など、川の源流で徹底した禁煙教育が出来、喫煙者を減らすことが出来たら、この肺がんで手術をする人の多くは手術をしないで済んだかもしれず、国の持ち出しも減るなあと考えたのです。禁煙教育にはほとんどお金は掛かりません。

私はその病気の後、この窓口に異動になりました。元々保健師なので、公衆衛生という考えで仕事をしてきましたが、より、源流でどうにかしたいと強く思うようになりました。

自分の権利があること、周りの人にも人権があることなどを感じてくれた子どももいます。これは憲法の基本的人権ということですが、そういう言葉を知らなくても、十分に伝わるもので、そういう理解をしてもらうことこそ、川の源流でどうにかしようという試みの成果だと思います。

まとめ

暴力の原因は暴力をふるっていいという考え方。暴力は「ふるわれてもいい人」も、「ふるっていい人も」いないということを子どものうちから伝えたい。出来るだけ多くの子どもと大人に「暴力についての話し」を聞いてほしい。事件事故の多くは暴力によるものです。この「暴力は絶対にあってはならない」と考える人たちを出来るだけ増やしたいと考えます。それが「川の源流でできること」だと思います。